糖尿病治療や予防にサイクリングが良い理由を解説します。
糖尿病の治療の基本
糖尿病の治療の三本柱が
- 食事療法
- 運動療法
- 薬物療法 です。これらを効果的に組み合わせる必要があります。
日本糖尿病学会よる糖尿病治療ガイド2018-2019によれば、まずその人に合ったエネルギー摂取量を決めて、「食事療法」をはじめ、同時に「運動療法」を、できれば毎日、少なくとも週3~5日、強度が中等度の有酸素運動を20-60分、計150分以上行うことが推奨されています。この治療を2-3か月行っても効果が少ない時、目標の血糖コントロールができていないときに、「薬物療法」を始めることが推奨されています。メタボ体型で、まだ糖尿病と診断されていない人でも、このような運動療法を日常生活に取り入れることで、糖尿病罹患リスクを減らせるともいえます。
ただ実際には多くの人が、「食事療法」や「運動療法」を十分に行わないまま、「薬物療法」に頼っています。
糖尿病の運動療法はまず「有酸素運動」
有酸素運動と呼ばれるものを行います。
有酸素運動とは、サイクリング・ウォーキング・ジョギング・ストレッチ・エアロビクス・水泳といったもので、呼吸を行いながらできる運動のことです。運動する時間の目安は、ウォーキングやジョギングなら1日最低15分。できれば、血糖値の上がる食後に行うのが理想です。
次に運動の強度ですが、こちらは「中強度」での運動が推奨されています。これは、期待される運動療法の効果と、患者の健康と安全性を考慮した運動強度となっています。
では、中強度の運動とはどれくらいの運動なのでしょうか。その目安となるのが目標心拍数と呼ばれるもので、算出にはカルボーネン法という算式を用います。
■目標心拍数={(220-年齢)-安静時心拍数}×0.5+安静時心拍数
※運動強度50%の場合
これにより、安全で効果の高い運動強度を知ることができます。運動をして心拍を計り、目標心拍数より多いようなら運動量を減らして調整します。
さらに「レジスタンス運動」を加えることを推奨
スクワットやダンベル体操など、筋肉に抵抗(レジスタンス)をかける動作を繰り返す運動が「レジスタンス運動」です。
糖尿病の運動療法は、「有酸素運動」と「レジスタンス運動」を組合せ行うと効果的であることが、900人以上の2型糖尿病患者を対象とした調査で明らかになっています。
「有酸素運動とレジスタンス運動のどちらも、血糖コントロールを改善しますが、もっとも理想的なのは、2種類の運動を組み合わせて行うことです」と、研究を主導したウィーン大学のルーカス シュビングシャクル氏は言っており、現在のガイドラインでも「有酸素運動」と「レジスタンス運動」を組合せ行うことを推奨されています。 糖尿病ネットワークHP
サイクリングは頑張らなくても「有酸素運動」
別の投稿ページにも記載していますが、サイクリングは平地で気持ちよく走っている時でも、おおよそ有酸素運動の目安となるような心拍数を維持できます。もともと運動嫌いな人が、いきなりジョギング・エアロビクス・水泳などを始めようとしても、ハードルが高いと思います。あまり頑張る意識がなくても、続けやすい運動といえます。
私は週末に70kmの、ヒルクライムを交えたサイクリングを習慣化していますが、出張や天候不良などで乗れないこともあり、その時は片道15kmの通勤を車から自転車に切り替えて、週末の運動不足を補うようにしています。通勤路はほぼ平地ですが、これだけでも一日500-600kcalの消費カロリーがあります。毎日でなくても、通勤の一部をサイクリングにすることでも、大きな効果があると思います。
ヒルクライムなら「有酸素運動」+「レジスタンス運動」
ヒルクライムはさらに糖尿病学会が推奨する運動方法、「有酸素運動」+「レジスタンス運動」といえます。平地では自転車の慣性が働いて、少々漕ぐのをさぼっても前進しますが、ヒルクライムは、足を止めるとすぐに止まってしまいます。常に下半身に負荷がかかる状態で、「レジスタンス運動」といえます。私も平地ばかり走っていた頃より、ヒルクライムを始めてから、体重や体脂肪がより減るようになり、意識してマイ坂(別ページ)に向かうことで、体重や体脂肪を維持できています。習慣化すれば、それほどきついと思わなくなるし、逆に2-3週間以上マイ坂に行かないと、いつもの坂がかなりしんどくなります。
糖尿病でも合併症がある人は専門医と相談を
運動療法を禁止したほうがよい場合
- 眼底出血あるいは出血の可能性の高い増殖網膜症・増殖前網膜症
- レーザー光凝固後3〜6カ月以内の網膜症
- 第3B期(顕性腎症後期)以降の腎症(血清クレアチニン:男性2.5mg/dL以上、女性2.0mg/dL以上)
- 心筋梗塞など重篤な心血管系障害がある場合
- 高度の糖尿病自律神経障害がある場合
- 1型糖尿病でケトーシスがある場合
- 代謝コントロールが極端に悪い場合(空腹時血糖値≧250mg/dLまたは尿ケトン体中等度以上陽性)
- 急性感染症を発症している場合
運動を制限したほうがよい場合
- 単純網膜症がある場合
- 重症の高血圧がある場合(収縮期血圧180mmHg以上、または、拡張期血圧110mmHg以上)
- 骨・関節疾患など整形外科的問題がある場合(特に肥満者や高齢者)
- 糖尿病壊疽がある場合
糖尿病合併症のある人の運動
糖尿病網膜症
糖尿病網膜症を合併している患者さんでは、運動による血圧変動が網膜の血管に作用し、出血を引き起こす場合があります。
糖尿病腎症を合併している患者さんに対しては、従来は運動を制限する傾向がありましたが、過度の運動制限によって、体力やQOL(生活の質)が低下するなど、デメリットの面が指摘され、近年では、適度な運動によって運動耐容能(持久力や有酸素運動能力といった身体運動の負荷に耐えるために必要な機能)やQOLの向上、また糖代謝や脂質代謝の改善などに期待ができることから、腎機能の悪化を招かないように注意しながら、病期に応じた強度の運動を指導します。
下肢に潰瘍や壊疽を発症した患者さんは、基本的な運動であるウォーキングでさえも危険な場合があります。足に荷重がかかっても、感覚神経障害によって、過剰な負荷がかかっても自覚がないため、病状が悪化する危険があります。そのため、足に負担のかからないプールでの水中歩行、自転車エルゴメータ、イスに座ってできる体操が勧められます。
自律神経障害がある患者さんでは、運動時の呼吸循環器系の反応が低下し、心拍数や収縮期血圧の上昇が鈍くなることがあり、突然死のリスクが高くなります。そのため、日常生活で動く程度にとどめておきましょう。
1型糖尿病患者さんの運動
運動によって直接的に血糖コントロールが改善されるわけではありませんが、運動によってインスリンの働きがよくなり間接的に血糖コントロールへ好影響を与えます。また、体力の向上、ストレス解消などQOLの向上の点で、運動による良い効果を得られます。したがって、1型糖尿病患者さんも合併症の問題がない限りは、運動療法を積極的に実施することが勧められます。
実施時には、エネルギー消費の増加による低血糖に十分な注意が必要です。低血糖を避けるためにはSMBG:self measurement of blood glucose(自己血糖測定)を行い、運動強度に対して、その人なりの血糖の変化を把握するとともに、インスリン量の調整、補食の摂取、運動量の調整を行いましょう。1型糖尿病患者さんの運動療法は、糖尿病専門医の指導、監督下に行うのが望ましいと思います。